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量子コンピュータについての具体的な実例・検証事例が紹介された2019年7月の書籍です。

これまでの量子コンピュータの書籍では、量子ビットの話やD-Wave社の量子コンピュータの話が多く、あまり活用事例やデメリットが語られていなかったと思います。本書はそれらとは一線を画しており、活用事例やメリットだけでなく、判明してきたデメリットやそれをカバーする手段について語られています。

現在の量子アニーリング方式の量子コンピュータは組み合わせ最適化問題を中心に使われてるようですが、D-Wave販売当初は量子ビット数が少なく、用途が限られていたようです。最近では2048ビットに増えることで、例えば2000人程度の学生の巡回最適化などに使えるようになってきたそうです。

量子コンピュータは高速な計算ができるというよりは計算手順を変えることで解を得る時間を短縮化するものととらえると良いそうです。わかりやすい説明ですね。

組み合わせ最適化問題は現在主流のコンピュータで計算すると膨大な時間がかかりますが、それが量子コンピュータを使うと瞬時に解ける、というのがこれまで多く見られた説明です。たしかにそういった事例もあるようですが、実は量子コンピュータでも複雑な問題の場合は、横磁場をかける時間をゆっくりにする必要があり、そうしない適切な解が得られないのだそうです。

現在の量子コンピュータでは、エラーも発生することから、エラーがあっても訂正できるような仕組みと合わせて実用化されているようです。また、1000回実行すると必ずしも同じ答えにならないようですが、最適解に近いところで多少ばらつく性質を持っているそうです。常に完璧な答えを得るのを前提とせずに、そのような性質を利用すれば、従来型のコンピュータでは非常に時間がかかっていた問題に十二分に対処できるようになります。実際にバスの運行表の作成や、渋滞緩和のための最適化ルート探索、ジョブマッチング、などに活用しようと複数の企業が実証実験を繰り返しているそうです。

このように、量子コンピュータの事例が増えるに従ってメリットだけでなく、デメリットもわかってきました。デメリットがわかると、それをカバーする手段も研究され提案されてきています。着実に実用化に向けて進んでいます。今後、さらに量子コンピュータの活用事例が増え、従来型コンピュータでは実現が難しいとされてきた問題が解決できるようになり、結果として私たちの生活がより便利に、かつ、低消費(エコ)で実現できるようになる日が来るのが楽しみです。